羽島市旧本庁舎デジタルアーカイブ/羽島市公式Webサイト

2024年05月28日

旧本庁舎竣工時の記念写真

旧本庁舎竣工時の記念写真（AIによりカラー化）

羽島市旧本庁舎について

羽島市出身の建築家、坂倉準三が設計した羽島市旧本庁舎は、市政5周年の記念事業の一つとして1959年に完成しました。竣工当時は「海外の建築を取り入れて設計したホテル式の豪華な建物」と評されました。

鉄筋コンクリ―ト造地上4階建の旧本庁舎の傍らには30mの望楼がそびえ、建物の周囲には池が設けられています。この池はかつてこの土地が蓮池だったことに由来してしつらえたと言います。2階の入口へは南北のスロープでつながっています。さらに旧本庁舎の東側面には外部からもアクセスができるように各階へ続くスロープが設けられており、訪れる人々が利用しやすいよう動線も考えて造られています。内部には市役所の機能のほかに図書館、公民館、消防の機能も併せ持っており、複合施設として地域の人々に親しまれてきました。

坂倉はモダニズム建築の巨匠ル・コルビュジエに師事していました。坂倉が手掛けたこの旧本庁舎も、モダニズムの思想で設計されています。コンクリート打ち放しやスロープなどによる機能性に加え、入口周辺は柱を残して吹き抜けの空間となる「ピロティ構造」が取り入れられています。一方で、外壁の窓や湾曲した議場部分の屋根など独特のデザインがうかがえます。
内部には独特のフォントが使われています。また、坂倉は建築の傍らで家具デザインも手掛けていました。旧本庁舎には坂倉設計の家具も配置されています。

竣工当時の旧本庁舎（写真提供：清水建設株式会社）

入口のスロープとピロティ

湾曲屋根と水平に続くバルコニー

議場

銘板

旧本庁舎で使われていた家具

羽島市旧本庁舎は1960年に第12回日本建築学会賞を受賞、2003年には近代建築の記録と保存を目的とする国際組織DOCOMOMO　Japanが選定する「日本のモダン・ムーブメント100選」に選ばれるなど、高く評価されてきた日本モダニズム建築代表作なのです。

坂倉準三について

岐阜県羽島郡竹ヶ鼻町（現羽島市）出身の坂倉準三（1901-1969）は、日本を代表する建築家の一人です。はじめは美術史を専門に学んでいましたが、1929年に建築を志しフランスに渡り、1931年から世界的建築家ル・コルビュジエ（1887-1965）のもとでモダニズムを学びました。1937年のパリ万国博覧会日本館の設計で建築家としてデビューし、日本館は建築部門グランプリを受賞しました。数年間ル・コルビュジエの仕事を手伝った後に帰国し、1940年には坂倉準三建築研究所（現・坂倉建築研究所）を設立。その後は主に戦後から高度経済成長期にかけて、国内の様々な建築設計に携わり、時には家具のデザインや都市計画などにも取り組み、民間公共問わず幅広く活躍しました。

坂倉準三（国（文化庁国立近現代建築資料館）所蔵）

パリ万国博覧会　日本館 1937年パリ万国博覧会日本館出典：巴里万国博覧会協会編『一九三七年「近代生活ニ於ケル美術ト工芸」巴里万国博覧会協会事務報告』（1939）（国立国会図書館デジタルコレクション）

坂倉の建築思想は師であるル・コルビュジエから受け継いだモダニズムです。従来の伝統的な素材やデザインではなく、機能性や合理性を重視しました。しかし、坂倉は単純に機能性のみを重視した訳ではなく、かつて建築について「人間が使うものであるということが肝心です」（「坂倉準三と30分」（『建築文化』vol.12 No.2、1957））と述べていたように、人が快適に過ごせる空間であることを大切にしていました。この人間のためという考え方が、坂倉が家具デザインも手掛けていたことや、都市デザインに携わっていたことにもつながっています。

ル・コルビュジエと坂倉準三（国（文化庁国立近現代建築資料館）所蔵）

坂倉の建築は高く評価されてきました。羽島市旧本庁舎が日本建築学会賞を受賞したほかにも、シルクセンター国際貿易観光会館は建設業協会賞等受賞。前川國男、吉村順三とともに共同設計した国際文化会館は日本建築学会賞を受賞、新宿西口広場は日本都市計画学会石川賞・日本建築学会賞を受賞するなど他にも数々の建築が高く評価されています。また、旧神奈川県立近代美術館は2020年に国の重要文化財に指定されました。これらの評価が、坂倉が日本のモダニズム建築に与えた影響の大きさを物語っています。