2022年08月01日

    難しい教育施策の効果測定

     教育を受ける権利は、憲法26条において、次のように定められています。

    • 第1項 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

    • 第2項 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。

     教育は公共経済学の分野では、人的資本への投資として位置づけられています。教育を受けることで、知識や能力が蓄えられ、その成果として生産性が高まり、収益増につながるからです。身についた知識や技術は、周りの人々にも波及します。革新的な発明や発案をすれば、その恩恵は社会全体の利益増につながります。

     社会経済に対し、教育がもたらした成果の度合いは、あまり評価されることはありません。このため、教育関係者が望むような水準の方策実現には至らないこととなります。そこで国が介入し、平等な教育機会の提供を、憲法で明確化したのです。

     では、国の資金をどれくらい投入すべきでしょうか。教育による成果は、経済市場で取引されることがないから、具体の金額で明らかになりません。これまでの研究では、教育には犯罪抑制をはじめ、健康増進、政治参加の促進等、様々な効果もあるとされています。しかし、1年の教育で、犯罪が何パーセント減ったとか、寿命が何年延びたという定量的な測定は困難です。

     防犯対策による社会秩序の確保は、重要な公共政策です。教育を受けることで安定した職業に就くことができ、罪を犯す選択肢は低下すること。義務教育課程により、学校で過ごす時間が長くなり、若年において犯罪機会に触れることが少なくなる。学校教育により、忍耐力や協調性を養うため、犯罪で道を外したり、その後の人生で犯罪に関与しない意識が備わる等が挙げられます。

     教育水準と健康にも、相関関係があるといわれています。教育により受けた知識から、医療や健康関連情報を容易に入手する手段を見出すことができます。過度な飲酒や喫煙等のリスクのある行為を、自主的に避ける行動にもつながります。

     教育と政治参加の投票率の関係では、国や選挙制度により、その効果が大きく異なるようです。アメリカでは、義務教育の延長を自然実験として利用し、投票率を高めたという結果が出ています。一方、ヨーロッパでは、多くの研究結果が、教育と投票率の関係がないことが発表されています。教育施策の実行には、一概に成果を論ずるのではなく、データを的確に測定し、その効果を科学的に分析して制度設計に活用する仕組みが、肝要だと考えます。